タミフルと民
■タミフル、10代投与を中止…異常行動また2例で(読売)
とうとう厚生労働省が10代へのタミフル投与回避を促す情報を出しました。私も今日職場で知ったのですが。タミフル(一般名リン酸オセルタミビル)はインフルエンザの特効薬(A型、B型共に有効だがC型には無効。話題の鳥インフルエンザに関しては不明)としてロシュ社が発売して以来、大ヒット商品となった薬です。剤形としてはカプセル(75mg、換算体重37.5kg以上用)、小児用として3%ドライシロップ剤(要するに「甘い粉」の意味。当のタミフルのはそれほど甘くなく、不味いです)があり、発売以降インフルエンザの第一選択薬としての地位を確立してきました(発売当初は非常に品薄で、注文してもシーズン中に入手出来ないなんて事もザラでした)。作用システムはインフルエンザウィルスの持つノイラミニダーゼという酵素を不活性化して、ウィルスの細胞からの離脱を不可能にし、結果としてウィルスの増殖を抑えるというもの。タミフル自体にはインフルエンザの主症状である高熱や痛み自体を緩和する作用は無い為に、普通は他の咳止めや解熱剤などを併用しますが、タミフルを服用する(注:性質上、発症から48時間以内に内服しないと充分な効果が得られないとあります)事で、通常1週間ほど継続する症状が3日間程度に抑えられ、また熱なども比較的軽症で済みます。全世界で使用量のほぼ3/4を誇る日本では、更に自治体などでの備蓄など、信頼性の上でも非常に大きな薬でありました。しかし。ここ数年で、こと子供に服用させた際の「異常行動」が取り沙汰されるようになりました。飛び降りや妄想・うわ言、果ては走行中の車に飛び込み死亡など…このような事例はほぼ日本のみで報告されており、昨年にはアメリカにて「タミフルとの因果関係は確定できない」との報告があり、また「インフルエンザ脳症」という若年者にあるインフルエンザに伴う症状との区別が付き難いという点もあり、今迄日本厚生労働省は慎重な態度を保持してきました。しかし、それでもなお因果関係が否定できないとし、昨日3/21に、「10代への投与はなるべく控える」という通達が出ました。で、何故「10代か?」という点なのですが、10歳以下である場合は保護者などが監視し易いというポイントもあるのですが、最近の事例で、保護者が異常行動を起こした子供を抑え切れない(即ち、体力や体格の為に、保護者の静止を振り切って飛び降りたりする為)という点が大きいのです(ちなみに、患者はこのような「異常行動」を全く覚えてないようです)。で、流石に厚生労働省も無視できるフラグメントとして処理しきれなくなり、このような限定付き措置に踏み切ったと思われます。数年前よりタミフルの安全性に対しては再三再四議論がなされていましたが、とうとう国が折れた、という感じですね。いち薬剤師としては残念な話ですが、これはもう「薬の持つ因果」みたいなものですので、それがとうとう露見した、という感じです(なお、現時点で成人以上の年齢でこのような事象の報告は稀であり、ほとんどが若年層に偏っている)。
しかし、そうなってくると問題になるのが、「10代のインフルエンザにはどう薬を処方すべきか?」というポイント。候補は二つあるのですが、それぞれ問題を抱えています。
■吸入型インフルエンザ治療薬「リレンザ」(成分名ザナミビル)
利点:
○働き方はタミフルと同じノイラミニダーゼ阻害。よってA/B型共に効果がある。
○吸入タイプなので、患部に直接作用する為、タミフルのような脳症状を起こすリスクが低い(とされている)
○今年から小児への保険適用がなされるようになった。
難点:
●吸入パウダーという特殊な使用法の為、小児や老年者にとっては慣れるのが大変(慣れてしまえばむしろ飲むより簡単なのですが…)。
●小児への保険適用は5歳以上。それ以下だと自費診療となり高額です。
●根本的な品薄で、現在日本ではほぼ入手不可能。供給は早くとも今年5月頃からと目される。
GSKの来シーズンの頑張りを期待するが、タミフルがこのような状態になってしまった為、ほぼ10代の第一選択薬になるだろうと目される来シーズンは、タミフル発売当初のような「買占め」により、安定供給は難しいかも知れない。
■内服インフルエンザ薬「シンメトレル」(成分名アマンタジン)
利点:
○内服なので摂取が簡単。錠剤、粉の剤形がある。
○元々タミフルは1歳未満の乳児に対して原則禁忌であったが、本剤は使用可能。
○タミフル、リレンザに比べて圧倒的に安い(50mg錠を使用したとするとおよそ1/10の値段)。
難点:
●A型のみに有効で、B・C型には無効。恐らく鳥インフルエンザにも無効と思われる。
●タミフルやリレンザに比べて耐性ウィルスの比率が圧倒的に高いとされている(2005年アメリカの調査では耐性率92.3%という報告がある)。
●元々はパーキンソン症候群用の薬であり、それに伴い精神神経系の副作用も懸念される。
まぁ、来シーズンは基本シンメトレルで、Bが出たらリレンザみたいな感じになるのかなー?それよりも未だにインフルエンザはシーズン真っ只中なので(今はB型が流行中)、当面は今シーズンどう乗り切るか?になっちゃうんですけどね…ニュース明けの今日は私が担当した患者で該当する人は居ませんでしたが。是非とも来期はGSK(グラクソ・スミスクライン)社には頑張ってリレンザを量産してもらいたいものです。シーズンになって混乱するのは嫌ですから。