見田竜介 | 代表作 |
DragonHalf、黒髪のキャプチュード | |
見田竜介は専門学校卒業後間もなく、雑誌「ドラゴンマガジン」にて「DragonHalf」の連載を開始。大筋としては人間とドラゴンの間に生まれたドラゴンハーフの少女・ミンクとアイドル剣士・ソーサーのラブストーリー。しかしソーサーはドラゴンを目の仇としているため、人間になるべく魔王アザトデス討伐の旅に出る、といったもの。さっぱりとしたかわいらしい画風、笑ってよいのか微妙なギャグで早くも人気を果たす。しかし氏の絵に対する探究心は強く、また月刊連載だったため、一時期は一話ごとに絵柄が違うといった事も。そうして次第に、現在に通ずる瞳が極端に大きく、極限までディフォルメされた肉体描写へと移ってゆく。丸ペンにて描き出される緻密な絵に氏独特のセンスにより生み出される斬新な構図やデッサン表現は現在のアニメ調イラストレーションの潮流に大きな影響を与えていることは否定できない。 その唯一無二のヴィジュアル面に意識を取られてしまい見逃しがちであるが、ストーリー面も注目すべきである。DragonHalf連載中に氏は「コミックドラゴン」にて「黒髪のキャプチュード」を連載開始。銀河系とは異なる、青い大気のある宇宙でラーメン屋兼トレジャーハンターを営む地球人・万次とその息子キャプチュード、そして謎の少女キャメルの3人。この宇宙では、すべての生物が4人の「聖母(マザー)」から生まれている。しかし、キャプチュードはこの宇宙における異分子・万次と、この宇宙の住人・スイシャの子、つまりこの宇宙の生態系にあるまじき存在であり、「呪われた受精生物」として幼少より虐待を受けて育つ。タイトルにもある「黒髪」だが、この宇宙で黒髪を持つ生物は万次とキャプチュードのみ。ゆえに「黒髪」は忌むべき象徴となる。しかしキャプチュードは「騎神(スペクター)」を封じた指輪を手に入れることにより、その指輪をつけた腕を圧倒的な破壊力をもつ「剣」にすることができる「騎神召喚士(スペクトマスター)」となり、己を否定する秩序に抗う「力」を手に入れるのだった。基本的な設定はこのようなものである。絵はすでに「DragonHalf」において成熟してきた時期にあった。それに加えて氏はジャンプ系も真っ青の圧倒的な戦闘描写をはじめ、猛烈なスピードで動くことのできるケブラータ、こちらからは触れることが出来ないのに向こうからはこちらに触れることが出来るという奇妙な闘士スタンピード、口から3匹の妖鬼を召喚して戦わせるムーンサルト、キャプチュードよりも高レベルの「騎神」を駆るメイヤーやスプラッシュなど、魅力的なキャラクターを次々と創作し、レベルの高いバトル漫画として構築してゆく。ストーリーが進むにつれ、「聖母」とキャプチュードの間の対立は次第に激化し、最終的にはキャプチュードは聖母本人へと殴り込むことになるのであるが、氏の手腕が発揮されるのはそれより少し前、この宇宙においてほぼ唯一の、キャプチュードに好意的に接する謎の少女・キャメルの正体が曝されたあたりからである。そこまでの物語では、困難をすべて「力」によって解決してきたキャプチュードのベクトルを上手く昇華させ、そして感動のエピローグへと展開させる。 個人的には、この「黒髪のキャプチュード」という作品に対して不満点が全くない。つまり、私にとって「完璧な」作品なのである。氏の漫画は絵柄ゆえのとっつきにくさはあるものの、「キャプチュード」は一読の価値のある漫画と胸を張って言える。 ただ、「アフタヌーン」に於いて短期間連載された「愛天明王物語」や、「ガンガン」に於いて連載の「朱玄白龍るびくら」(後に「Gファンタジー」へと連載の場を移し、「閃光華るびくら」と改題、現在も連載中)に於いてはややエネルギー不足の感が拭えないのは私だけだろうか。 「笑っちゃうほど悲惨な環境で育った」と自認する氏の経験のためか、氏の漫画は何らかの迫害を受けている主人公がそれに立ち向かう、といったネガティヴとポジティヴの混在した設定であることが多い。ゆえに、現在の主な読者層は一層の感情移入ができるのではないだろうか。 余談ではあるが、氏は漫画家の御祇島千明氏と組んで同人活動も積極的に行っている。商業作は少年向けであるが、同人では成年向けのスタンスを取っており、濃厚な性描写に加えてオチもきちんと作りこまれている。連載を抱えているためそれほどページ数は裂いてはいないが、興味を持った読者(成年限定)は購入してみてはいかがだろうか。さらに余談であるが、かなり昔のこと、とある美少女ゲーム(当時はエロゲーのことをこう呼んでいた)の原画が当時の氏の絵柄に酷似しているものがあったが、実際に氏が担当したかは不明のままである。なおその原画家のペンネームは「神威」であった。 |